クロースは過大評価なのか?
お久しぶりです。今回は久しぶりに一人の選手について掘り下げて書いてみようと思う。
その選手とはドイツの精密機械ことトニ・クロース。
クロースはどういう観点から観るかによって評価が別れる選手である。
御大クライフに…
「クロースはワンダフルだ。彼のプレーは正しいことばかり。彼のパスのペースは素晴らしい。すべてが見えているね。完璧に近い」 |
…と絶賛されたかと思えば、「安全なパスしか出さない」とか、「守備軽すぎワロタ」とサポーターに叩かれたりもする。
まぁ守備が軽いのは揺るぎない事実なので、今回は彼がボール持った時のプレー・長所、クライフの言ってる「正しい」とは何を意味しているのか?という事について書きたい。
ユベントス戦のゴールで検証
クロースの技術的な特徴を調べてみると、「パス成功率の高さガー」とか、そういう安直なコメントが多い。
そして、それが「パス成功率が高い=安全なパスしか出さない」というネガティブな意見にも繋がっているように思える。
しかしクロースに否定的な人には冷静に考えてもらいたい、そんな選手がマドリーで長年レギュラーを張ってタイトルを獲得できるだろうか?
…って言った所で、否定的な人には伝わらないと思うので、題材を用意して説明したい。
題材に選んだのは16-17シーズンCL決勝ユベントス戦の1点目。(ロナウドがカルバハルからのクロスを流し込んだヤツ。動画だと6分ぐらい。)
まずクロースがドリブルで運ぶ。
クロースからのパスをベンゼマが受ける。
そしてロナウドがベンゼマからボールを受けて、
ロナウドがカルバハルに出して…
そのリターンをロナウドが流し込んだ。
正しいプレーとは?
これだけだと「別にクロースなんもしてないじゃん」と思う方がほとんどだろう。
注目すべきはクロースがベンゼマにパスを出したこのシーン。よーく見てもらいたい。
実はクロースはベンゼマの左足にパスを出しているのだ。勿論ベンゼマは左足も上手く扱える選手だが、右利きの選手なので、本来なら右足に出すのが普通。
なぜクロースは左足に出したのか?ただのミス?いやそんなわけない(笑)
その後、反転しながら左足で受けたベンゼマは右足で逆サイドのロナウドに展開している。
つまりこの時のベンゼマの動きは…
反転しながら左足で止める→右足でロナウドにパス |
という事で2アクションになる。
これでもしクロースがベンゼマの右足に出していたらどうだろう?推測になるが…
右足でボールを止める→右足で持ち出す→右足でロナウドにパス |
といった感じで3アクションになってしまう。
つまりクロースがベンゼマの左足に出した事によって、ベンゼマは1アクション分の動き・時間を省略できたというワケ。わかりやすく言うと、クロースがこのシーンでやったのは「時間の貯金」である。
もしクロースがベンゼマの右足に出していたら、ベンゼマの所でモタついてる間にユーベの守備陣形が整って、ロナウドのゴールは生まれなかっただろう。クロースの生み出した「時間の貯金」がこのゴールの隠れた起点になっているのだ。
マドリー時代、クロースをアンカーのポジションに据えたカルロ・アンチェロッティは…
「速いパス回しを実現する事で、前線のアタッカーが時間とスペースを享受できる。」 |
と言っていたが、まさにこのシーンはその言葉にピタリと当てはまる。
評価されにくいクロースの能力
ロナウドのシュートシーンを見てもらえばわかるが、実はクロースもエリア内に顔を出している。
クロースはベンゼマにパスを出す前の時点で「ベンゼマに反転しながら左足で受けさせて、右サイドに展開させて、そのリターンボールを狙う」というビジョンがあったのだろう。(余談だが、瞬時にクロースのパスの意図を汲み取って完璧に実行するベンゼマも凄い。)
この数手先を読むプレービジョンこそがクロースの最大の長所ではないだろうか。
だが、それは可視化されるものではないので、多くの人は気づかない事が多い。よって「安全なパスしか出さない」という批判に繋がって、クロースの評価に乖離が生まれているのではないだろうか。
クロースは「どこにどのタイミングでパスを出すか?」という答えの見えない難問を90分間、簡単に解き続ける。
それがクライフのいう「正しいプレー」の真意であり、シャビが「クロースはマドリーのエンジン。」と称賛する理由なのだ。