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ジダン退任特別コラム:英雄との別れ、断ち切れなかった「信頼」という名の絆

レアルマドリード
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栄冠の後にカオス。これこそレアルマドリード。

 

関連記事:CL決勝レアルマドリード対リバプール~上手いは正義byジダン国王杯ベスト8レアルマドリード対レガネス2nd Leg~人生はプラマイ0って本当なんだね

 

 

ジネディーヌ・ジダンが今シーズン限りでマドリー監督の座を辞する事を表明した。

当然世間は驚きを持って受け止めている人が多い。

私もリバプールに勝ったらジダンは続けると思っていた。だが退任自体には驚いてはいない。ジダンが監督に就任して2年半。監督のサイクルは大体3年が定説。あの天才グアルディオラですら4年で彼の心のクラブであるバルサを退団した。そう考えるとタイミングとしては間違いではない。

 

加えて今年始めに「ジダンが今シーズン限りで退任すると決めた」という報道もあったし、パリに家を購入したという報道もあった(フットボリスタの『ディープスロート』でお馴染みのディエゴ・トーレス大先生の話なので信憑性は疑わしいが…。ちなみにその記事の中では、パリに購入した家はフランス代表監督就任のためと書いてあった)。

ジダンが緊急会見を開くという話を聞いた瞬間に私は「退任」をイメージした。私が驚いたのはジダン側から辞任を申し出たという事だ。

ジダンがクビになるとしたら、無冠だった時、フロレンティーノ・ペレスが大ナタをふるった時、この2択だと私は思っていた。だが今回はジダンからの申し出という事で想定外のケースであった。

 

ジダンの退任会見のコメントを総括すると「チームには変化が必要」という事。先日のリバプール戦の記事でも書いたのだが、ジダンがまったくチームをアップデートしていない事は揺るがない事実であり、ジダンがそれを自覚していた事は意外だった。「じゃあアップデートさせろや(笑)」って話なのだが、ジダンは自分にはそれが出来ないと悟ったのだろう。それについては詳しく次の項で書きたい。

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ジダンにとっては失意のシーズンとなった17-18シーズン

 

ジダンは会見の中で「監督としてもっとも嬉しかったのは16-17シーズンのリーガ獲得」と言った。「CL3連覇じゃないのか?」と思う人もいるだろうが、これは偽らざる本音だろう。監督としての手腕が如実に表れるのが、日常の積み重ねが求められるリーグ戦である。

 

リーガを獲得した16-17シーズンの翌シーズン、ジダンに監督としての新しい挑戦が訪れる。その挑戦とは「若手育成」である。

16-17シーズン出場機会の少なさに不満をこぼしたハメス、モラタ、ペペといったビッグネームを放出。不満をこぼすビッグネームを放出すればロッカールームの雰囲気はより良好になる。

そして代わりに将来有望な若手を獲得。若手を育てつつ、適度に主力を休ませ3冠を狙う。これがジダンのプランだったのだろう。

だがその目論見は数ヶ月で暗礁に乗り上げる事になる。理由は簡単、それはジダンのチーム作りがあまりにも選手の能力に依存していたからである。

加えて、ジダンはCL2連覇を達成したとはいえ機能性に乏しい、イスコをトップ下に置いた4-3-1-2に固執。ベティス、ジローナ、ビジャレアル、トッテナムという格下に敗北。勝ち点を落とし過ぎてリーガ獲得の可能性は前半戦の時点で消滅。ジダン自身の立場すら危うくなり、ローテーションすら出来ない状態に陥る。

 

それでも国王杯とCL3連覇を達成する事が出来れば、成功のシーズンとしてシーズンを終える事が可能だった。だがその国王杯であろう事かホームでレガネスに敗戦してベスト8で敗退という失態を犯す。

この時がジダンは監督しての最悪の出来事だったと語っている。この試合については過去に記事で書いてボロクソに書いているので、それを読んでいただきたいのだが、この試合にはベンゼマ、ラモス、モドリッチ、イスコ、コバチッチといった主力級が出場しており、言い訳の出来ない敗戦であった。シーズン前の目的であった「若手育成」を放棄してまで、主力級を送り込んだのに1部残留が目標のクラブに敗戦。

 

「スタメン選手を数人欠いただけで自分のチームは機能しない」

 

それが監督としてのジダンにつきつけられた真実であった。自分が控え扱いしたモラタ、ハメス、ペペらに如何に助けられていたか…。この時のジダンが屈辱・挫折を味わった事は想像に難くない。おそらくそれが今回の決断に繋がったのだと私は予想している。

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ジダン退任の理由は断ち切れなかった「信頼」という名の絆

 

御存知の通りジダンは先日、リバプールを破りCL3連覇を達成した。試合を決めたのはシーズン終盤に向けて、尻上がりに調子を上げてきたベイルである。ジダンのビッグプレーヤーに対するマネジメント能力の高さを改めて再認する勝利であった。

 

リーガと国王杯での失態でわかったように、ジダンは若手育成には向かないが、ビッグネームを快適にプレーさせ、才能を解放する事が出来る監督である。

ならばチームのスカッド25人をビッグネームで固めればいい。そうすればリーガ・国王杯も十分に狙える。私もこのブログでずっとそう書いてきた。実際CL決勝後に出て来た選手獲得の噂(ヒメネス、アリソンなど)を見れば、フロントもそういう意図を持っていたのは明白だ。

 

CL獲得直後にローマのGKアリソンの獲得報道が流れた時、それと同時に「ジダンが今のGK3人を信頼しているので獲得を望んでいない」という報道も流れた。

今思えば、ここに監督ジネディーヌ・ジダンの葛藤が垣間見えた。

フロントのアリソンを獲得してナバスと競わせるという提案は真っ当な提案だ。ナバスはユベントス戦2nd Legで不安定なプレーを披露。年齢を考慮すれば後釜を確保するのはクラブにとって至上命題である。

おそらくジダンもGK獲得の必要性は理解していたのではないだろうか?だがジダンは新たなGKを獲得して、カシージャかナバスの内一人を放出するという決断を下す事が出来なかったのではないだろうか?

 

ジダンは1月に「チームの雰囲気が壊れる」事を理由に将来有望なGKであるケパの獲得を拒否している。今回も同じ葛藤がジダンの中で生まれたのだろう。ジダンの気持ちを説明すると「チームを強くするためには選手獲得は必要。だが自分は一緒に働いた彼らをクビにする事は出来ない。」という事ではないだろうか。

おそらくジダンが監督のままで、前述した通り、スカッド25人をビッグネームで揃えられればCL4連覇・三冠も可能だっただろう。ジダンもそれはわかっているはずだ。だが彼はそれをする事を拒んだ。自分の信念に嘘をつく事になるからだ。

 

「チームに変化は必要だが、自分は変わる事が出来ない」という事なのだろう。

 

全てを勝ち獲った英雄ジダンが唯一勝てなかった試合、それは彼自身の信念との戦いであった。

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merci zizou

 

ジダンは選手時代に英雄としてマドリーに来て、マドリーの選手として現役最後の試合となったビジャレアル戦で、ベッカムからのクロスをヘディングで叩き込んで英雄としてマドリーを去った。

そして監督としてもベニテスクライシスで失墜したマドリーを救ってCL3連覇を達成してみせた。そんな彼が監督としても英雄としてマドリーを去る。数々の名将がクビになって来たマドリーでだ。こんな素敵なストーリーは無い。

 

今シーズンはずっと酷い試合ばかりで、私も「アセンシオを左のワイドに固定するな、4-3-1-2止めろ、バスケスばっか使うな、若手使えや無能」みたいな事をずっと言ってきた。そんな私でも、ジダンがクラブを去るとなると、何とも言えない虚無感に苛まれている。

 

だがジダンも「これは『またね』であって『さようなら』ではない。マドリードはすべてを自分に与えてくれたし、これからも自分はこのクラブの側にずっといる。」と言っている。

 

出来ればマドリーにSD的な立場で戻ってきてもらいたい。それがジダンには一番向いてると思うから。もし監督をするならフランス代表を率いてもらいたい。ワガママな話だが、ジダンが率いるクラブとマドリーが戦ってるのは私は観たくない。

 

 

ジダンはいわゆる『名将』ではないのかもしれない。だが彼は常に『勝者』だった。

ミラノでのCL決勝の時、延長戦前にコンディション不良で疲労困憊のクリスティアーノ・ロナウドにジダンは微笑みかけた。クリスティアーノもそれに微笑みで返した。

あれは時代は違えど共に勝者であり続けた二人だから通じ合えた瞬間だった。あの笑顔は『勝者ジダン』だから出来たのだ。勝敗を最優先に考える『名将』には出来ない。

あの時ジダンがクリスティアーノに何を言ったのかは私にはわからない。だが監督としてクリスティアーノに戦術的指示をするのではなく、一人の人間として語りかけたのは想像できる。それが自分と同じく勝者であるクリスティアーノ・ロナウドにとって最善のアドバイスになると悟って…。そしてそのジダンの微笑みに応えるようにクリスティアーノは5人目のキッカーを名乗り出て、決めて見せた。

 



 

そしてそのジダンがあの時と同じ笑顔でマドリーを去る。寂しいがこんな素敵な事があるだろうか?激動の2年半お疲れ様、ゆっくり休んでくれ。そしてマドリーのために闘ってくれてありがとうジズー。